「種子が消えれば食べものも消える。そして君も」

日本には明治時代稲の品種が4000品種あった。現在では300品種。
ここ100数年の間に3700品種が失われたということだ。しかしこの数字は
他所の国と比較すると穏やかな数字だという。
他国では急速に多様性が失われている。
「生物多様性と農業開発」という講演を聞いてきた。
タイトルの言葉はその講演で聞いたベント・スコウマンという植物学者の言葉である。
例えばわたくしの手に大豆が10粒あったとする。
この10粒が、この世に存在するとある品種の最後の10粒だったとする。
これを食べてしまうと10粒分の大豆にしかならない。
さらにこの大豆の品種はこの世から永久に失われる。
おお、大変だ!
しかし畑に植えると何十倍にもなり、後の世代に伝えることができる。
世界中の農家がこうしてタネ=品種をつないできた。
タネは個々の農家の保護に依存してきた非常に脆弱な存在なのだった。
そして貴重な遺伝資源であるにも関わらず、きちんと保護されて来なかった。
その結果、近代農業の効率化、主に高品質品種・ハイブリッド種の開発により、
現在ものすごい速度で昔からあるタネが失われつつある。
その危機感は一般の消費者はほとんど感じていない。
それはわたくしたちが「与えられるものしか食べていない」からでもある。

例えば豆類はひとつのタネからものすごい数の豆をならせることができる。
しかしタネを植えて実がなるまで待っていられない飢えた人たちにとっては、
豆は今食べなくてはならないただの豆だ。
栽培できるというのは幸せなことなのだった。
消費者が日常生活でタネについて考える機会はそれほどない。
わたくしたちは、誰かが畑にまいて育てて収穫し、
誰かがきれいにパックしてくれたものをスーパーで買って食べる。
ブランド野菜でもない限り、品種なんてあんまり気にしない。
だって、大根は大根だもん。名前なんてあったんだあ、へー。ってな感じだ。
わたくしたちは、スーパーで野菜を吟味して選んでいるつもりでも
スーパーには「これなら売れる」と市場が考えているものしか置いてない。
実は消費者には選択の自由はない。市場がすでに選択しているからだ。
農家も同じだ。ほとんどの農家が、JAや市場が必要とするものしか作れないのだ。
わたくしたちの食べものは、市場が欲するもので決まっている。
そう考えると自由だと思っていた選択が非常に限られたものだとわかる。
実はわたくしたちは、与えられたものだけ食べている、
家畜のような存在なのかもしれない。
もしかしたら、市場と種子メーカーの家畜なのかもしれないのだった。

タネを採り、優れたものを選抜する技術というのは
属人性の高い作業でマニュアルが存在しない。意外と農家のかあちゃんの
専売特許だったりする。昨今ではその技術の継承も危ぶまれている。
2008年の世界の主要種子企業売上高は以下のようなものだ。
1位 モンサント(米国)
2位 デュポン(米国)
3位 シンジェンタ(スイス)
「タネを支配するものは世界を支配する」と言われる。
穀物の種子市場を席巻している上記の3社は、
GM作物を開発している会社だ。言葉通り、世界を支配しつつある。
植物の新品種の保護に関する国際条約という国際条約がある。
http://www.hinsyu.maff.go.jp/act/upov/upov1.html
非常に複雑で一度読んだだけではわからないのだが、
1978年条約と1991年条約では保護されている品種の条件が違い、
1991年以降に加入した国では保護された品種について自家採種が制限される。
(日本は1978年以前に加入。なのであまり制限されていない)
この条約に現在アフリカの各国が加入しつつあるらしい。ということは、
アフリカではそのうちかなりの品種の自家採種が制限されることになる。
そして上記穀物メジャー3社は今、アフリカでビジネスを始めようとしているのだ。
すでに世界は支配されつつある。

小さなタネから出たこの芽が土と雨とお日様だけで野菜になる不思議。
そして実をつける不思議。菜園をしていると毎回感動する自然のしくみだ。
そういうの、みんなもっと身近に感じるべきかもしれないね。
さて、作りやすく収量のいいハイブリッド種(F1)が開発されるまでは
農家は自分の畑でできた野菜のタネを自分で採っていた。
自家採種することで翌年のタネを確保し、たまに農家同士で交換はしても
タネを買うことはめったになかった。
今では農家は自家採種をすることは稀で、タネやでタネを買う。
F1は品質も収量もよく、形もバッチリ揃うし病気にも強かったりして、
作りにくくて収量が悪い在来品種を作るより儲かる。
在来種が評価されているのは主に都市部の話で、
ローカルエリアであえて在来種を栽培する農家は少数派だ。
そうしてタネの多様性はますます失われつつある。
この流れを押しとどめることは可能なのかな?
日本では自家採種を禁じられている品目が81品目ある。
ほとんどが花き類で、野菜はほんの少し。ってか知らない品種ばっかだ。
http://www.hinsyu.maff.go.jp/pvr/pamphlet/060801jikazousyoku.pdf
日本では自家採種はほぼ制限されていないと言ってもいい。
さらに日本は、自家採種を行う農業者の権利を認めた国際条約
「食料・農業植物遺伝資源条約」に加入することになった。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000003621.pdf
2013年10月28日からこの条約は有効になる。

実は自家採種するには土地がないと難しかったりする。
なにしろその作物の収穫が終了してからでないとタネはできない。
畑の隅っこという土地に余裕のある人じゃないとできないのだった。
15平米の区民農園では絶対にタネ採りなんてできないのだった。
TPP交渉が進むなか、これに加入した意味は大きい。
日本の農家の自家採種を禁じることはできなくなる。
(アメリカは現在この条約を締結中)
タネはその国独自の貴重な遺伝資源であるにも関わらず、
農家という非常にローカルな存在に依存している脆弱なものでもある。
タネがある限り食べものは栽培できるが、無くなれば何も残らない。
タイトルの言葉通り食べものは失われ、わたくしたちは飢えることになる。
消費者にできることはほとんどないのだけれど、
そんなあたりまえのことをもう一度考えてみたほうがいいかもしれない。
日々の選択をもう少し注意深くしたほうがいいかもしれない。
失われてからでは遅いのだから。
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