守りたい究極の手仕事「本場結城紬」

11月12日~14日まで結城市で開催された結城紬ウイーク。
高価なので通常はあまり在庫されない結城紬。街の呉服屋さんには何本も置いてないもの。
縞や無地、総絣などお店で買えば何百万という反物が一堂に並ぶ、夢のような光景でした。
まず、1993年のGATTウルグアイ・ラウンドの話から。
話題は米の輸入自由化。覚えている方もいらっしゃるでしょう。
結局ミニマムアクセス米を輸入することで決着がついたのですが、
米に注目が集まるなか、人知れず繭及び絹の自由化が行われていました。
あまり話題にならなかったのでしょうか。私は知りませんでした。
絹は過去、日本の外貨獲得源として大きく栄えた産業でした。
しかし現在では、中国・ベトナムからの輸入が主となり、国産割合はわずか1%。
農家戸数も1000戸と激減しています。
GATTウルグアイ・ラウンドの自由化を皮きりに、国産繭・生糸の価格は下がり続けました。
高齢化・後継者不足も相まって、養蚕業を営む農家は次々に廃業しています。
「これではいけない」と、国産絹のブランド化も行われていますが、
着物離れが進んでいることもあり、今後も右肩上がりは望めない状況にあります。
昨今は国産生糸の価格は輸入生糸価格とほぼ変わらず…というか逆転しており
(平成17年の1kg国産生糸価格は2,564円、輸入生糸は2,706円)
農家所得が繭1kgにつき700円弱というデータをみるにつけ、
新規参入どころか継続することすら困難なのでは…と感じてしまいます。
平成22年には国の繭代の補てんもなくなるということですから、
今後、国産の絹がどうなるのか…心配なところです。
養蚕業の衰退と着物離れ、どちらが鶏でどちらが卵かはわかりませんが、
洋装の普及も衰退の原因のひとつ。悲しいですね。
しかし昨今、着物に興味を持つ若い女性が増えていて、
夏には浴衣で、そしてお正月には晴れ着で、慣れないぞうりをはいて
ぎくしゃくと街を歩く女の子たちを見かけることが多くなりました。
そう思うと、絶望的状況でもないような気がします。

本場結城紬の証紙がはってあるワケあり品がずらりと並ぶ一角。
うっかりウキウキしてしまいましたが、売りだしと言えど25万とか30万とか。
でも普通はこんなお値段では買えないのです。産地直売の超お得イベントなのです。
「少しでも結城紬を身近に感じてもらえるように」そんな思いで2008年から開催しています。
帯によって着物の印象を変えられること、洋装では絶対できない色合わせなど、
知れば知るほど楽しくなるのが着物です。
かくいう私も22歳の時、近所の呉服屋で朱色の着物を誂えて以来着物に取りつかれ、
「着物って出会いなのよね~」という呉服屋のおばさまの口車に乗っては
うっかり着物を買い続けています。
その都度「アルマーニのスーツが何着買えるよ」と自分を説得するのですが、
なかなかうまくいきません。恐るべし、呉服屋のおばさま…。
それはともかく。
実はアルマーニのスーツどころか、SUV車が買えるくらいの値段の着物があります。
その着物の名は「本場結城紬」。
結婚式などの正式な場には着ていけない普段着。なのに100万円以上するものもざら。
まさに「究極の普段着」。だからこそ、着物好きには憧れの一品なのです。
孫の代まで着られると言われるその丈夫さ、あたたかさ。
着れば着るほど体になじむその着心地…ああ、憧れの的。
100年持つなら100万してもいいような気がしてきますが、なかなか手が出せません。

本場結城紬と言えば、地機。足先で糸の交差を、腰で反物の張りを調節しながら
少しずつ織っていきます。人間が機械と一体化し、機械にはできない微調整が可能になるため
しなやかで強靭な反物が織りあがるそうです。
高価な理由は全工程手作業であるという一点。
反物ひとつ作るのに一年かかることもあるというのですから驚きです。
それもそのはず、結城紬の技術は、「重要無形文化財」に指定されています。
継続し、後世に伝えていくべき技術…なのですが、
実はこういった手仕事の例にもれず、後継者不足に悩んでいます。
ざっくりとですが、結城紬の工程をご紹介します。
通常の着物は蚕が吐き出した糸を何本か撚り合わせた糸で織られます。
結城紬は繭をほぐした「真綿」という状態から、人の手(とツバ)による手紬で糸が作られます。
ちょっとやらせてもらいましたが、根気と時間の必要な仕事です。大変です。

真綿から糸を紡いでいる状態。簡単そうなんだけどそうでもなくて、
同じ太さでほそ~く紡げるのがやっぱり達人なんですって。この真綿、350枚が一反になります。

ぷちんと切れそうなんだけど、さすが絹。みよ~んと繊維が伸びてうまく糸になります。
真綿一枚作るのに必要な繭の数は1800個。お蚕ちゃん、ありがとうって感じですね。
さらにこの糸を染める作業がまた時間と手間の賜物。
織りあがりのデザインに合わせ、色の入る部分をひとつひとつ糸で縛り、
何度も染めをかけていきます。複雑な模様ほど時間がかかります。
そして、織り。
結城の地機(じばた)はヒトが織り機の一部となり、足・腰全身使って、
1枚の反物を仕上げていきます。平織りという単純な織り方なのですが、
きっちりと美しい反物に仕上げるのには、やはり経験と技術が必要。
趣味の織物をしている人たちが使っているのは「高機」というもう少し機械化されたもの。
原始的な織り機だからこそ、無形文化財たり得るのでしょうね。

印がついているところをヒモで縛っていきます。想像しただけで大変ってわかりますが、
一日に縛れる場所は1000か所くらいなんだそうですよ。

こまこまと縛ってあります。総柄の絣で多色使いなんて反物は、
縛るだけで半年かかったりするらしいです。まさに手仕事の世界です。
この工程が全て終了し、一枚の反物ができるまでには何カ月もかかります。
そうしてできた「本場結城紬」は、認証されラベルをつけて出荷されます。
百貨店の呉服売り場などに行くと、なんというかまあ、200万円とかですね、
そんな価格になることだってある結城紬。一般人には高嶺の花です…(ためいき)。
しかし、高額な商品だからといって、生産地が潤っているわけではなく、
紡ぎ手も染めも織り手も、後継者不足が危ぶまれています。
根気と手間がものすごくかかる作業…しかもそんなにお金にならない…
後継者不足は農業と同じ、ひょっとしたら、農業よりも危機的状況かもしれません。

紡いだ糸はこの桶のようなものに詰めていきます。糸の単位は1ぼっち(桶一杯という意味)。
真綿50枚でだいたい1ぼっち。1ぼっち約1万円の出来高制だそうです。
糸の細さで評価額が変わるそうですが、いずれにせよバンバン儲かる!ってな仕事ではありません。
愛がなくてはできませんね。
養蚕業も、手しごとも、農業と同様の問題を抱えているように思います。
機械化して大規模にモノづくりをすることで、価格を下げるのはいいことなのでしょうが、
失われるものも多いはず。誰か気づいているのかな?
便利で安価な輸入品に対抗するため、国内の産業に競争力をつけるべきとよく言われますが、
ほんとにそれがうまくいくのかな? 養蚕やみかんではできなかったのに?
そんなことを思いつつ「いつかはお気に入りの柄の結城紬を」と心に誓う私です。
(本当はバンバン買えるといいんでしょうけど…ムリかなあ…)
※上記のお話を聞かせていただいた方は結城市の「龍田屋」の御主人です。
今月、銀座で展示会があるようです。ご興味がある方は以下から↓
http://www.fujinuki.join-us.jp/
参考資料・平成18 年5月18日 農林水産省「蚕糸業をめぐる現状」
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