一生ものの伝統工芸品―山ぶどうのかばん

上野松坂屋で出店中の戸田寒風さん。後ろにいろんなかばんがありますよ。
持ってらっしゃるのは編み方の難しい変わり編みのもの。いや、お高いです。確かに。
『七緒』という雑誌をご存じでしょうか。
ターゲットはおそらく20~30代のリサイクル着物を楽しんでる着物女子。
すでに品とか格とかが求められる年になってしまったわたくしのようなオバハンには
少し若めの雑誌です。
年がいもなくこの雑誌を購読していた頃、知ってしまったどうしても欲しい一品。
それが山ぶどうのかばんでした。
生まれ故郷の西日本の中山間地、鳥取にはこのような伝統工芸品はなく、
40過ぎてから出会ったものですが、かわいらしくて美しくて、
いっぺんに好きになってしまったです。
で、この山ぶどうのかばん、2年前に入手しました。
さてそのお値段はいくらだったでしょう?

ころんとした丸い口もと、幅、高さのバランス。一目ぼれしてしまった山ぶどうのかばんです。
たくさんある中から「私を買って!」と声をかけてきた、世界にひとつしかない私だけのかばん。
自己満足の世界ですなあ…。
答→65,000円
ぐわっ! なんでそんなに高いわけ? 聞くと皆そう言います。
高い理由がきちんとあるのですよ~。
東急東横店の催事場で購入したこのかばんの作り手、
山形県米沢市にある、戸田寒風さんの工房へ行って来ました。
寒風さんは、畠・米沢あたりの人は皆知っている地元のチョー有名人。
もともとは笹野一刀彫という上杉鷹山が推奨した郷土品の作り手です。
冬の間は、山ぶどうのかばん作成で、全国のデパートの催事場を飛び回ってらっしゃいます。
さて、山ぶどうとはいったいどんなものなのでしょう?

むいてきた皮を干したもの。かばんの原料です。けっこう硬いんですよねえ、力がいりそう。

山ぶどうの樹から皮をはいでるところ(写真を撮影しました)。
けっこう太い、フツーのぶどうの樹って感じです。
よく東北の物産展などに出かけると山ぶどうのジュースを見かけますよね。
普通のぶどうよりも味が濃く粒は小さく、言ってみれば貴重品。
山ぶどうで作ったワインは国産ワインとは思えない力強さがあったりします。
最近は山の中に探しにいくよりも栽培をということで、栽培もされています。
山ぶどうのかばんは、この山ぶどうの樹の皮をはいで作ったもの。
そもそもは農民の日常的な道具(しょいかご)として、使われていたそうです。
編んでしまうと丈夫で長持ち、ちょっと壊れても修理が効くので
雑な使い方をしてもOKな、まさに日常的な道具だったのでしょう。
それが都会の着物女子の憧れの的になるとは…それもそのはず、
軽くて表情豊かなこのかばん、一度持ったら便利で手放せなくなるのです。
そのかばんの制作工程は、山ぶどうの皮を取ることから始まります。

いろんな編み方があるのですね。米沢の寒風さんの工房で並べてもらいました。
網目の小さなものや変わり編みものものは時間がかかるため、かなり高価になります。

通常は、私の持ってる基本的な網目のものが最初のひとつで、
次に買う時に表情豊かな変わり編みのものを選択する人が多いらしいです。
山ぶどうの皮は、梅雨時の一カ月位しか取ることができません。
この時期は水分を大量に吸っているため皮がするりとむけますが、
時期を逃すと全くむけなくなるのだそうです。時期とは言え、湿った山に入ってくのは大変そうです。
この皮を干してしばらく置いてから、水につけて小さく裂いて編み始めます。
コブがあったり最初から裂けてる部分は使えないので、
一本では財布一個くらいしか作れない…ってことは大量に皮が必要なのですね。
基本の編み方のかばんが、65,000円するのもうなづける話です。
梅雨時の山に入り、やぶ蚊に食われまくってどこにあるかわからない山ぶどうを探し、
皮をむいてくる手間、それを干して実際にちまちまと美しく編む手間
…気が遠くなるような手仕事です。

変わり編み3種。目が小さい・花模様ってことで、全部15万以上してました。
色の調整がうまくできず、ヘンテコな色になっててすみません。

力がいるので男の人しか編めないお花のような模様。
不思議なニュアンスのあるかわいい模様ですが、どうやって編んでんのかな~。
山に入るには山の持ち主の許可が必要なため、誰にでも取れるわけではありません。
また、大量に生えているものではないので、資源が枯渇し始めているそうです。
一度切った山ぶどうが再生するのには何十年もかかるため、
今後は価格が上がっていくだけという話も聞きました。
昨今では安価な中国産の山ぶどうのかばんも売っているのを見かけます。
これは修理が難しく、中国産の山ぶどうは強度がいまひとつってことで、
安くて入手しやすくても、後のことを考えると国産品をお勧めいたします。
(2万位安いんですけどね~買っちゃいそうになりますけどね~)

修理に来た人が新しいのを買っちゃったので置いてったという15年物。
色が変わってます。これは持ち主の手の脂とかその他もろもろで、それぞれに色合いが違うのだとか。
わたくしのかばんはどんな色になるのか…今から楽しみでございます。
編み手はどんどん高齢化していて、後継者はあまり育っていません。
手が痛くなるほど力のいる作業なので、編み手は意外と男性が多いそうです。
あくまでも副業的なこの仕事。主な職業にはならないでしょうから、
後継者は難しいんじゃないかなあ…そんな気がします。
まだまだ新しいものを買っては捨ててる現在のニッポンでは、
修理ができて、さらに年とともに自分と一緒に成長していく道具なんて
なかなか見つかりません。
年を経ていくごとに自分の手の脂が回り、色合い風情が変わっていく…
世界にひとつだけしかない、自分だけの山ぶどうのかばんができあがるのですから
高かったけど買っといて良かったなあ!と最近よく思います。

栃の実と山ぶどうの皮で作ったちっこい飾り。
寒風さんのところでかばんを買うと、サービスでつけてくださいます。
栃の実ってかわいい形してますよね。私のかばんにもくっついてます。
着物なんかもそうなのですが、伝統的な手仕事のものを大切にしていきたいなあ…
年を取ったせいか、ますますそんな風に思っています。
戸田寒風さんに会えますよ!
2月8日まで上野松坂屋本館催事場で山ぶどうのかばんを出店されています。
楽しいお話も聞けるので、ぜひ行ってみてくださいね。
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