「絆」が本来の安全では?-宮崎県綾町・山口農園さんに行ってきた

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Byほんたべ

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山口農園・山口今朝廣さん。ものすごーく勉強になりました。
二時間ほどでしたが、研修生が集まる理由がわかるような気がしたです。



宮崎県に綾町という「有機農業の町」がある。
わたくしは大地を守る会時代、一度生産者会議で訪問したことがあった。

農産物直売所で手づくりの柚子胡椒(緑じゃなくてオレンジ色の)を買い、
柚子胡椒が手づくりできることを知ったが、訪問中に大地を守る会に大事件が起き、
東京に戻って夕方から出社した後めっちゃ働いたため、綾町のことはほとんど覚えていない。

ということで、どのような有機農業の町なのか全然知らなかった。
しかし「有機農業の町」なのだ。もう一度行ってみたい! と思っていた。

そうしたら、処女作『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』の編集者が、
現在綾町に引っ越してカフェをやってるとおっしゃるではないか。
ということで、行ってきました。綾町に。

行ってみると綾町はとくに「有機農業の町」ではないようだった。

「有機農業の町」は前町長時代の話で現在はそのような方向性は薄まっているらしい。
が、「有機農業の町」というブランド、というか知名度は残っているから、
わたくしのような人が全国からたくさんやってくるそうである。

なんてことは置いといて。

綾町で有名な有機農家は「山口農園」「早川農園」の2軒だそうである。
どちらも研修生を受け入れて、独立するまで面倒をみていらっしゃる。
わたくしはそのうちの一軒、山口農園に行ってきた。

山口農園(山口今朝廣さん)は炭素循環農法を取り入れ有機農業を営んでいる。

炭素循環農法とは「たんじゅん農法」とも呼ばれる農法で、
木材チップを入れたり廃菌床を利用したり、地面の上に置く・溝を切って入れる
等々のいろいろなやり方があるようだが、本来は廃菌床を入れるのだと今回初めて知った。
山口さんも廃菌床と法面の草など炭素分のみを畑に入れ、その他は何も使っていない。

さて、山口さんの住まいと畑は綾町の山のなか、尾立地区にある。

ええー、こんなとこに集落あるの? みたいな山道を登っていくと
ぱあっと急に開けたところに小さな集落がある。空は広く、まさに山のてっぺんだ。
尾立地区は満州から引き上げてきた山口さん一家を含めた人々が開拓した戦後の開拓地だ。

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段々畑というか、小さな面積の畑が連なっております。小さな機械しか入らなそうです。
しかしこの面積だからこそていねいに廃菌床が入れられたりと手入れができるのでしょう
法面に生え放題の草も全部畑に入れるので、何一つ無駄になりません。

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個人宅配ですが注文制ではなく、トラックに積んでったもののなかから選べます。
何十年も行ってるので、この時期はここんちはなにが欲しいかなど把握されていて、
留守のときは置いてったりもしているそうです。野菜価格は100円、150円、200円の3価格帯。
生育期間などで設定しているそう。その他スーパーやレストランにも販売しています。



山口さんの畑は、見るからに中山間地農業=小規模な面積で高低差のある
小さな機械しか入らなさそうな、耕作が不便そうな畑であった。
畑の総面積は3.5ヘクタールだが、稼働しているのは1.2ヘクタール。
少量多品目の野菜は宮崎市内の約200世帯の消費者に、週に2日個人宅配をしている。

山口さんが有機栽培を始めたのは35年前だ。

当時は地区のほとんどがみかん畑だったため、高校卒業後12年間みかんを栽培した。
その後山口さんはみかんをやめ、有機農業で野菜をつくることにした。
ちゃんと聞かなかったが、これは綾町が「有機農業」に舵を切った頃ではあるまいか。

最初の12年間はいわゆる有機質肥料を入れる有機農業をやっていたが、
病虫害が多かったため、EM菌をつかったEM農法に切り替えた。
しかしEM菌を使っても病虫害は収まらなかった。

EM農法を12年やってみた後、山口さんはたんじゅん農法に出会う。
「虫に食われるような野菜は人間が食べる野菜ではない」という
たんじゅん農法の提唱者・林幸美氏の記事を読んだことがきっかけだった。

しかしたんじゅん農法に変更してからも4~5年は病虫害は出たそうだ。
思い悩んでいたら、林氏がわざわざ見に来てくれた。

その後も廃菌床を入れ続け、野菜を作り続けていたらいつの間にか病虫害は減っていた。
最初のころあった生育ムラも、土の力ができてきたのかなくなった。
たんじゅん農法に切り替えて10年経った。
今では自分は種をまいて収穫するだけ、あとは微生物がやってくれると山口さんは言う。

肥料を与える世界と無肥料でつくる世界では栽培技術も変わる。
自分は微生物に廃菌床というエサを与え、微生物に養分をつくってもらっている。
自然の原理を畑で再現すれば人は何もしないでいい、これが誰にでもできる技術なのではないか
と、山口さんは考えている。

廃菌床は4ヶ月に一度、年に3回10アールにつき1トン入れている。
栽培の途中でも入れることがあるためマルチは敷かない。草は人力で抜く。
この日は研修生が一人、ニンジン畑の草を抜いていた。

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山のなかなので猿や鹿が出ますから、ガッチリしたフェンス上部に電気が通ってます。
こんなしっかりした電柵を始めてみた気がするなあ。自治体が設置してくれたそう。

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綾町の通称「ほんものセンター」。野菜や農産加工品の直売所です。
ここで柚子胡椒買ったことだけ覚えていました。おいしそうなおやつや
お弁当がたくさん売ってて、住んでたら毎日通ってしまいそう。



法面にも草が茂っているが、廃菌床を入れるときこの草も刈って入れてしまう。
施肥設計も計算もまったく必要のない技術だと山口さんは言う。

山口さんの人柄とたんじゅん農法に惹かれて研修生は次々にやってくる。
尾立地区は高齢化が進み限界集落の瀬戸際にあるが、
山口農園で卒業した研修生は10年間で18人。皆綾町に定着してくれたそうだ。

農業後継者はほとんどいないが、よそから来た若い人たちが綾町に定着し、
これからの農業を盛り立ててくれればいいと山口さんは考えている。
また、山口さんはいつか尾立地区を有機野菜のデパートにしたいと言う。

卒業した研修生たちの野菜の品質は、今はまだまだだがこれから良くなるだろう。
そうすれば、尾立地区はいろんな安心野菜が手に入る、そんな場所になるだろう。
有機野菜を軸にして尾立地区が活性化する。これが山口さんの夢である。

ハゼの芽が出たら霜は降りない、藤の花が咲いたら何をまいても大丈夫、
みかんの花が満開になったらオクラをまくなど、たんじゅん農法だけでなく、
山口さんの技術は自然とともにある。

そこで生まれる野菜は、何十年も前から山口さんの野菜を購入し、
今では親戚のようになってしまった200軒の消費者の生命を養っている。
「安全と言えるのは絆があるからじゃないですか?」と山口さんは言う。

顔の見える関係とか、安心安全とか、いろんな理屈をこねてきたわたくしだが、
山口さんの話を聞いていて、この販売方法は有機農家の理想のかたちなのではないか
と、素直に思えた。

小規模な家族経営の個人農家が中山間地で有機農業を営む理想のかたち。
条件が悪くても、有機でも、小規模でも。だからこそできるのかもしれないかたち。
なんかほんと、勉強になりました。

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