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多様性、資源の循環、自分の農業に大切なもの-井田真樹さん(鳥取県南部町)

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Byほんたべ

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井田真樹さん。田んぼから引き上げたカモを耕作しなかった田んぼに放して飼育します。
カモを入れておくとその田んぼは翌年ほとんど草が生えないので、
次々に場所を移動して草取りの手間を省いています。これも資源の循環。

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おいしそうだなーカモ。キツネやカラスではなく主にオオタカに襲われる、というのが
山の中なのねって感じです。今年も20羽ほど食べられたとか。
わたくしからハンターのニオイがしたのかそばに寄ってくるまで30分ほどかかりました。



わたくしは時折、有機農業関係のお勉強会の講師に呼ばれることがあります。

昨年、鳥取県の有機農業イベントに呼ばれお話をさせていただいたのですが、
そのとき受けた印象は、わたくしが大地を守る会に入社した頃とあまり変わらない
=有機農業についての理解や体制がほとんど整っていないということでした。
というか、東京が進みすぎているだけなのかもしれません。

有機の道はまだまだ厳しく険しいのではないだろうか。とくに地方では。
しかし、最近イオンのバイヤーが各地の有機農家を回ってるらしいから
そのうち有機農産物売り場ができて、人々はバンバカ買うのかしら、なんちて
思ったのですが、そのお勉強会で印象に残った方がお二人いらっしゃいました。

井田真樹さんはそのうちのお一人であります。

井田さんは、鳥取県西部の南部町で、水稲を9ヘクタール、大豆を3ヘクタール、
小麦2ヘクタール、JA出荷の富有柿1ヘクタール、梨を30アール栽培しています。

富有柿と梨を栽培していた井田家のあとを継ぎ、20歳で米作りを始めたときは
とくに有機などにこだわっていなかったと言う井田さん。
農薬を気にし始めたのは結婚後、子どもが生まれてからでした。

「子どもが梨畑で遊ぶのを見てて、草や木についてる農薬が気になった。
梨や柿は農薬散布が前提の作物。だから何かの拍子に口に入るかもしれない。
そこで30歳のとき、合鴨を使った合鴨水稲同時作を始めました。
安全な食べものというより、農家環境をよくするために有機を始めたって感じかな」

3反からスタートした合鴨米。kg500円で売りましたが、全く売れずに一年目が終わりました。
2年目に一人お客さんがつき、3年めに「せっかく合鴨を使ってるんだからそれを強調しよう」と
「合鴨農家」で売り出したところ反響がとてもよく、米は完売しました。

「ネット通販のサイトに登録して売ったんです。登録農家は100人近くいたかなあ。
中国地方の登録農家はうち一軒しかなかった。まだ自分で米を売る時代じゃなかったんですね。
で、登録農家のなかにいい値段で売ってる人がいて、その人が有機JASを取得してた。
それを見て、自分も農薬や化学肥料を使ってないのにと悔しくなって、
平成18年(2006年)に有機JAS認証を取得しました。

翌年、大阪の自然食カフェ「GRAN」さんがウチのお米を買ってくれたんです。
で、売れるお米の数量がグッと増えたので、どんな人が食べてくれてるんだろうと、
妻と二人で大阪に行ってみたんです。そうしたらすごくステキな料理になってて、
うれしくてうれしくて、ありがたくて、妻と二人で泣きそうになりながら食べました。
GRANさんは今もずっと僕のお米を買ってくださってます」

井田さんは、有機栽培の田んぼのかたわらにビオトープをつくったり、
戻ってきたタガメの取り放題イベントをしたりと、環境問題にも力を入れています。
レッドデータブックに載っている「スブタ」という水草が生えてきたときには
県の職員がビックリしてわざわざ見に来たそう。
現在は、幼稚園の園児たちに田んぼを開放し、稲刈りなどの農業体験も受け入れています。

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カモの田んぼから下を見たところ。楔形に開墾された中山間地でよく見る地形です。
昔はそれぞれの田んぼに持ち主がいて、合計13人で管理してたそうですが、
今はほとんどの人がやめてしまい、井田さん以外に田んぼやってるのは一人だけだそう。

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数日前にイノシシがフェンスをなぎ倒して田んぼに入り、地面のミミズを食べて行きました。
イノシシは入ったところからは決して出ないので、フェンスは必ず二箇所壊れます。
一度来るとしばらく続けてくるので、直してもまた壊されるから腹が立つと井田さん。
このフェンスの修理も井田さん一人でやらなくてはならないのです。大変だよー。



「その幼稚園では園長先生の方針で園児にカマを持たせます。
うまくできない子、最初からよくデキる子といろいろだけど、そのうち慣れてくる。
シャイであいさつもできなかった子が意外とうまくてヒーローになったりする。
子どもたちに農業体験をさせるのはとても楽しいんですよ。ちょっとだけ疲れるけど」

2011年の東日本大震災以降、西日本のお米の引き合いが強くなり、
いろいろなところから「有機米を売って欲しい」と言われるようになりました。
しかし、それまで応援してくれたお客さんのぶんが無くなってしまうと考えた井田さんは
平成28年(2016年)に有機JASの取得をやめることにしました。

「規模を拡大して量を作ってもっと売るとはあまり考えなかった。
それまでは有機が大切だと思ってたけど、実はお客さんにはそういうのは関係なくて、
僕のお米が食べたいと思ってくれている。

それに、自分自身仲買に出す気はまったくなかった。誰でもそうだと思うけど、
おいしいお米を作っているという自負があれば、自分の名前で売りたくなるはずなんです。
だから消費者のみなさんが『井田さんのお米がいい』と言ってくれているのであれば、
有機JASである必要もとくにないと思った。で、きっぱりとやめました」

「有機」ではなく「自分のつくったもの」に価値があるなら有機認証は必要ない。
有機ブランドではなく自らがブランドになればいい、ということなのでしょう。
しかしそうなるにはおいしいもの、品質のいいものを作り続ける必要があります。

「効率や金銭的なことだけ考えれば、大規模単作のほうが絶対にいい。
でもそうしないのは、僕が目指すのは多様性のある循環型の農業だからです。

例えば、祖父が農業をしていたころ、畦の草は家にいる牛の餌にするので取り合いになってた。
でも今の農家の家に牛はいない。また牛飼いは配合飼料をやるから草なんか欲しがらない。
自然のなかに資源はいくらもあるのに誰も利用していないように思える。
だから多様性のある農業、多面的な農業を目指し、資源を循環させたいと思ったんです。

雑草は嫌われるけどカモの餌になる。邪魔な雑草でもカモがいれば資源になります。
畜産という視点で見ると、田んぼから引き上げたカモを肥育して餌をやるなんてのは
効率的じゃないしどっちかっていうと無駄かもしれない。金額もたぶん合わない。
でもカモは人間が食べられないクズ米や、出荷できない梨や柿も喜んで食べる。
カモがいるだけで、資源が回るんです。

合鴨水稲同時作はそもそも米を作りつつカモの肉を獲得するしくみ。
カモを業者に引き取ってもらうなんて、すごくもったいないと思います」

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大豆と小麦は安来市のお醤油屋さんに。酒米も作って鳥取県中部の酒蔵で
お酒を仕込んでもらっています。そのお酒は先日ミシュランで星をもらったという
米子市の割烹「桔梗屋」のご主人が愛してやまないお酒。ガツンとくる味でした。
井田さんのつくる作物を軸にして人のつながりも生まれているのですねー。



井田さんが合鴨水稲同時作をやっている田んぼは1.5ヘクタール。
ここに120羽カモを放し、カラスやオオタカにやられず生き残るのはだいたい100羽。
冬になる前に鳥の処理施設で解体してもらい、自家用として、またお客様にも販売しています。
米と同時に育てたカモ。自分で餌を与えるのですからこれ以上安心な肉はありません。

鳥取県の農業は、典型的な中山間地農業ですが、井田さんの住む鳥取県西部は
例外的に大山の裾野=平地が広く、大規模集約型の米作りが可能なところです。
そのため、最近では平たい土地は大規模農業の担い手が借り上げ、農地をどんどん拡大しています。
政府の方針通り土地が動いていて、平地は借りられなくなってきたと言う井田さん。

「山の中の田んぼを一人で維持するのはムリだから、たぶん僕の世代で農業は終わり。
でもあとしばらくはいろいろなことにチャレンジしていこうと思ってます。
中山間地だからこそできる農業を実践していきたいし、そこに可能性を見出したい。
そんな農業をしたいと思っている人がいたら、ぜひ来てもらいたいと思います」

井田さんは現在従業員を募集しています。中山間地でがんばってみたい、
という方はぜひ、コンタクトを取ってみてはいかがでしょう。

耕す人がいなくなれば田んぼには木が生え、そのうち山に戻ってしまいます。
日本全国にそのような田んぼを耕している人はまだたくさんいます。
中山間地農業の未来は明るくはありませんが、がんばってる人がいる限り
わたくしは応援していきたいと思う次第です。

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